長野県内には旧制中学を母体とした伝統校が各地域に存在しており、中山間地においても例外ではありません。飯山高校(旧飯山北高校)、木曽青峰高校(旧木曽高校)、大町岳陽高校(旧大町高校)は、その代表的な存在です。
いずれも少子化や都市部への人口流出の影響で学校統合を経験しましたが、母体となった高校はいずれも長い歴史を持ち、地域の教育を支えてきた名門校です。
しかし、統合によって募集定員を減らした後もなお、定員割れを避けられず、生徒確保に苦戦しているのが現状です。なかでも木曽青峰高校の状況は特に厳しく、その苦境は他地域の高校と比べても際立っています。
木曽青峰高校のいま
木曽青峰高校は現在、普通科・森林環境科・インテリア科・理数科の4学科をそれぞれ1クラス(40人)ずつ募集するという、県内でも珍しい構成をとっています。地域に高校が少ないため、多様な進路希望に対応しようという意図は理解できますが、結果的に学科間のバランスが非常に悪い状況になっています。
一般的には、多様な進路に対応できる普通科が多数を占めますが、木曽青峰高校ではその構成が逆転しています。
過疎地域の中で際立つ定員充足率の低さ
次の表とグラフは、「過去5年の定員充足率」を3校で比較したものです。
■過去5年の定員充足率


飯山高校や大町岳陽高校は、おおむね8~9割前後の定員を確保しており、定員割れしつつも中山間地域としては安定した充足率を保っています。一方で木曽青峰高校は全学科で7割を下回る年度も多く、特に理数科では過去5年平均で充足率0.57という厳しい状況が続いています。
【出典】
・長野県教育委員会 公立高等学校入学者選抜情報(https://www.pref.nagano.lg.jp/kyoiku/kyoiku/jukense/index.htmlhttps://www.nagano-c.ed.jp/nagakou/)
※令和3年~7年の前期/後期選抜入学予定者数をもとに筆者作成。
※充足率は定員に対する入学予定者数の割合から算出。ただし再募集による入学者数は除く。
理数科の不振に見る「需要と供給のミスマッチ」
木曽青峰高校の理数科は、旧木曽高校時代の平成10年に設置されました。当時は地域の受験人口も多く、普通科の中でも特に理系志向の生徒が理数科を志望するという、健全な住み分けが成立していたと考えられます。
しかし、少子化の進行により、現在では学校統合を経て、普通科・理数科ともに定員が40人ずつとされ、学科間のバランスが大きく崩れています。
下表のとおり、平成10年当時(木曽高校・木曽山林高校時代)と比べると、普通科の比率は半分以下に減少しており、理数科や専門学科が同規模に並ぶ、極めてアンバランスな構成となっています。

※ 平成10年は木曽高校/木曽山林高校、令和7年は木曽青峰高校の募集定員より
このように、かつて全体の半数を占めていた普通科の枠が大幅に縮小された一方で、理数科や専門学科は1クラス体制のまま残されたため、各学科が横並びとなり、地域の進路ニーズに合わない構造となってしまいました。
地域の中学生すべてが理系志望や専門分野に関心を持つわけではなく、本来であれば、多様な進路に対応できる普通科を中心に据えるべきところが、いまや少数派となっているのです。
おそらく、木曽青峰高校の理数科は、飯山高校や大町岳陽高校でいう「探究科・学究科」のように、文理を問わず進学に対応できる特進的な役割を理想としていたのかもしれません。
しかし、「理数科」という名称では、文系志望や進路を決めきれていない中学生からは敬遠されてしまうのが現実でしょう。
その結果、普通科希望者の受け皿が小さいまま、理数科や専門学科にも志願が分散しきれず、全体として定員割れが常態化するという悪循環を生んでいるのです。
現実的な再編の方向性
現状のまま各学科を40人ずつ維持するのは、もはや持続可能ではありません。今こそ、地域の実情に合わせた再構築が必要だと思います。
現実的な案として、次のような形が考えられます。
普通科・理数科
普通科と理数科を統合し、普通科を120人募集とする。
普通科の中に「特進コース」を設け、従来の理数科の教育内容を引き継ぎます。こうすることで、文理どちらの志望にも対応でき、幅広い層にアピールできる構成になります。
森林環境科・インテリア科
森林環境科とインテリア科を統合し、「森林創造科(仮称)」を新設する。
「森林環境コース」と「インテリアコース」のコース制を導入することで、旧木曽山林高校の学科構成を継承しながら、森林資源・木工・デザインなどを横断的に学べる新しい学科として再設計します。

この2学科制に再編することで、学科構成のバランスを整えながら、定員確保と地域貢献の両立を図ることができると考えます。
おわりに:中山間地域高校再生の試金石として
中山間地域における高校の再生には、「地域の現実と生徒のニーズをどう両立させるか」という視点が欠かせません。木曽青峰高校の現状は、全国の地方高校が直面する課題を象徴しているようにも感じます。
しかし同時に、地域資源を生かした教育の再設計に取り組む好機でもあります。
「森林創造科(仮称)」のような地域密着型の学科や、普通科特進コースのような多様な進路対応の仕組みを取り入れることで、木曽青峰高校は再び地域に誇れる学校へと生まれ変わることができるのではないでしょうか。


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