高市早苗さんが首相に就任し、このところニュースでその名前を見ない日はありません。
そんな高市さんの出身大学が「神戸大学」だということを知り、「へえ、神戸の大学なんだ」と初めて意識したという人も多いのではないでしょうか。
長野県では「神戸大学」という名前はあまりなじみがありません。
しかし、大学受験に詳しい層からすると、神戸大学は旧帝大に匹敵するレベルの難関国立大学として知られています。
その一方で、一般的な知名度となると「神戸にある大学」という程度で止まっている印象があります。
なぜ神戸大学は、ここ長野県ではそれほど知られていないのでしょうか。
今回はその理由を考えてみたいと思います。

旧帝大ではないことによる“ブランド差”
まず大きな要因は、「旧帝大」というラベルの有無でしょう。
東大をはじめとした7つの旧帝大は、かつての“帝国大学”として国が設立された背景があり、そのブランド力はいまも全国で根強く残っています。
一方、神戸大学は旧帝大ではなく、戦前の旧制神戸高等商業学校を母体とする大学です。
しかし、実際の難易度や学問水準では北大や九大などの旧帝大と並ぶ水準にあります。
それでも、「旧帝大ではない」ということで全国的な知名度やブランドイメージが広がりにくかった。いわば、“ラベルの力”が歴史的に大きく作用してきたのです。
関西の高校生にとって、京大・阪大・神大のいわゆる“京阪神”の三校は今も昔も憧れの対象です。
神戸大学も京大・阪大に次ぐ名門として絶大な人気を誇ります。
しかし、一歩関西を離れると、そのブランド力は不思議なほど影を潜めてしまいます。
ここに、神戸大学が持つ「地域による知名度の落差」が象徴的に現れています。
長野から見て“心理的に遠い関西”
神戸大学が長野県ではなじみの薄い理由のひとつに、関西という地域そのものへの“心理的な距離”があるように思います。
地理的には、関西は近くはないけどすごく遠いわけでもありません。実際、京都の大学——たとえば京都大学や同志社、立命館といった名門には、長野県からの進学者も毎年一定数います。
ところが、それが大阪・神戸となると一気に減る傾向があります。
距離の問題ではなく、むしろ「文化的・心理的な壁」のようなものがあるのではないでしょうか。
京都
京都は大学の数も多く、学生のまちとしてアカデミックな雰囲気が強い都市です。
“こてこての関西”というより、むしろ全国から学生が集まる開かれた学都という印象があります。
そのため、長野県の受験生にとっても京都の大学は比較的受け入れやすい存在です。
大阪
しかし、大阪になると雰囲気が一変します。
人情味があり、エネルギッシュで、関西弁が飛び交う街——長野県民の堅実で控えめな県民性からすると、やや圧倒される印象を持つ人も多いかもしれません。
そうした“ノリ文化”に対する距離感が、進学先としてのハードルを上げているように感じます。
神戸
そして神戸は、その大阪のさらに先にあります。
関西圏の中では洗練されたイメージのある都市ですが、長野県から見ると大阪を経由しないとたどり着かない場所でもあります。
つまり、地理的な距離よりも、「文化的に一段遠い場所」という印象が強くなるのでしょう。
このように、神戸大学が長野県であまり馴染みのない背景には、“遠さ”の問題ではなく、“関西らしさ”への心理的距離が隠れているのではないでしょうか。

首都圏志向の強い長野県の進学事情
長野県の高校生は、全国的に見ても首都圏志向が強い地域です。
国公立大学でいえば、筑波大学・千葉大学・横浜国立大学といった首都圏の大学が「現実的かつ志望したいラインナップ」として定着しています。
一方で、関西の大学は視野に入りにくい傾向があります。
以下のグラフは、準難関とされる国立大学8校(北海道大学、東北大学、筑波大学、千葉大学、横浜国立大学、名古屋大学、神戸大学、九州大学)について、2012~2025年の長野県出身入学者数の総数を示したものです。

【出典】大学改革支援・学位授与機構 「大学基本情報」https://portal.niad.ac.jp/ptrt/table.html
※2012~2025年のデータをもとに筆者作成
このグラフを見ると、神戸大学の入学者数がいかに少ないかが一目瞭然です。
首都圏の筑波・千葉・横浜国立の3大学と比べても圧倒的に少なく、さらに距離的にはるかに遠い北海道大学にも大きく及びません。
長野県民にとって、北海道の寒さや雪といった環境はそれほど抵抗がなく、むしろ「旧帝大ブランド」という明確な動機づけがあります。
そのため、距離があっても志願者が多いのに対し、神戸大学は“物理的距離”よりも“心理的距離”のほうが障壁になっているように見えます。
それでも神戸大学は“実力派”
しかし、実際のところ神戸大学は全国屈指の実力派です。
特に経済・経営・法といった社会科学の分野では、古くから高い評価を得ており、全国の企業や官公庁に数多くの卒業生を輩出しています。ちなみに高市首相も神戸大学経営学部の出身です。
それ以外の分野でも、関西では京大・阪大に次ぐポジションを確立しており、学問の中身や就職実績の点でも旧帝大に匹敵する評価を受けています。
つまり、長野県ではあまり知られていないだけで、実は「すごい大学」なのです。
高市首相の登場で変わるか、神戸大の知名度
高市首相が神戸大出身であることが徐々に知られるようになり、長野県でも「神戸大学ってそんなに難関なのか」と注目が集まりつつあるでしょう。
政治家や官僚、実業界など、さまざまな分野で神戸大出身者の活躍が目立つ今。
こうした流れをきっかけに、神戸大学が「関西の名門」から全国的に再評価される日も近いかもしれません。
おわりに──遠いけれど、知るほどに魅力的な大学
長野から見れば、神戸大学は距離的にも文化的にも少し遠い存在です。
しかし、その実力や教育水準は全国トップクラスであり、「旧帝大ではない名門」としての存在感は確かなものです。
高市首相の登場は、そんな神戸大学の名を全国に広めるきっかけとなりました。
これを機に、「神戸大学」という名前を“遠い大学”としてではなく、“知る人ぞ知る名門”として認識し直す人が増えていくかもしれません。


コメント