はじめに|長野県を代表する進学校2校を比較
長野県を代表する進学校といえば、「長野高校」と「松本深志高校」。
いずれも県内トップの進学実績を誇り、長年ライバルとしてしのぎを削ってきました。
入学難易度はほぼ同等とされる両校ですが、進学実績や現役率に違いはあるのでしょうか?
本記事では、2021年〜2025年の大学合格実績(5年分)をもとに、両校の進路傾向を比較・分析していきます。
学校の概要
長野高校
所在地:長野市
創立:1884年(明治17年)
概要:
長野県の公立進学校に共通する自由な校風ではあるが、深志に比べるとやや落ち着いた雰囲気。進路面では医学部志望も一定数いるものの、東京大学をはじめとする「東京一工」などの難関国立大学を志望する生徒が多い。近郊の中学校トップ層が進学し、中でも信州大学教育学部附属長野中学校からの進学者が毎年多くを占めている。
松本深志高校
所在地:松本市
創立:1876年(明治9年)
概要:
生徒自治の伝統など群を抜いた自由な校風が特徴。裏を返せば、学校側からの干渉が少なく、放任と感じる向きもある。進路面では医学部志向が強く、地元の信州大学をはじめ、毎年多数の医学科合格者を出している。浪人してでも第一志望を目指す傾向が強い。校名は「深志」だが、実は所在地の住所は「松本市蟻ヶ崎」(蟻ヶ崎高校と同じ)である。
大学別合格実績の比較(2021~2025年)
まずは、以下のような大学群ごとの合格者数を比較しました(5年間合計)。
- 東京一科(東大、京大、一橋、東京科学)
- 主要難関国立(旧帝、筑波、千葉、一橋、東京科学、東京外国語、横国、神戸)
- 早慶上理
- 国公立医学科
東京一科(東大、京大、一橋、東京科学)
主要難関国立(旧帝、筑波、千葉、一橋、東京科学、東京外国語、横国、神戸)
💡 注目ポイント:
主要難関国立大学群でも、長野高校が松本深志高校を上回っています。特に東北大学・千葉大学・東京外国語大学といった首都圏・東日本の大学で大きく差をつけており、長野高校の進路が「東日本志向」にあることが伺えます。
一方の深志は京大をはじめ名古屋大学や大阪大学など、中部~関西圏の難関校に強みを見せており、進路傾向の違いが結果にも如実に表れています。
早慶上理
💡 注目ポイント:
早慶上理の合格実績を見ると、長野は深志に対し、おおよそ2倍以上の合格者数を記録しており、特に早稲田大学や上智大学ではその差が顕著に表れています。この違いは、両校の受験戦略や進学志向の違いによるところが大きいと考えられます。
長野高校では、文系私大への進学を視野に入れた受験戦略が浸透しており、併願による合格者数の積み上げがあると見られます。
一方で、深志は理系・医学部志向が特に強く、「浪人してでも第一志望に挑戦する」という文化も今なお根強く残っており、私立大学そのものを受験しない生徒も少なくないのでしょう。
こうした進路に対する姿勢や文化の違いが、合格実績にも現れているように思われます。
国公立医学科
💡 注目ポイント:
深志が66名の長野を大きく上回る91名という結果になっています。
5年間を通じて、深志の方が毎年安定して高い実績を残しており、全体として医学部志向の強い校風を持っていることがうかがえます。地元の信州大学医学部をはじめ、全国の国公立医学部に進学する生徒が毎年一定数おり、進路として医学部を第一志望に据える生徒の比率が高いと考えられます。
一方、長野高校でも一定の医学部進学者を出してはいますが、「東京一科」などの難関大学への進学が主軸となっている点で、深志との傾向の違いが見て取れます。
分類別の現役率比較
合格者に占める「現役生」の割合を、カテゴリ別に比較しました。
■現役率比較
長野 | 深志 | |
東京一科 | 62.5% | 68.8% |
主要難関国立(東京一科除く) | 79.7% | 75.7% |
早慶上理 | 65.6% | 66.7% |
国公立医学科 | 60.6% | 49.5% |
難関大合計 | 70.1% | 68.1% |
数値だけを見ると、意外にも両校の現役率はおおむね同水準でした。ただし、医学科においては顕著な差が表れました。
▶ 医学部志向が浪人率を押し上げる
国公立医学科における現役率は、長野高校が約60%であるのに対し、松本深志高校は約50%を下回る結果となりました。
これは、深志高校における「医学部志向の強さ」と、「浪人してでも第一志望を貫く」という風潮が特にこの分野で色濃く表れていると見るべきでしょう。地元・信州大学医学部を含め、浪人覚悟で挑む生徒が多いことが背景にあります。
▶ 「現役志向」vs「本命志向」
長野高校は全体として「現役での進学を重視し、併願校も戦略的に受験する」傾向がある一方、松本深志高校は「本命一本で勝負し、浪人も辞さない」姿勢が目立ちます。
したがって、浪人率の違いは単なる学力の差ではなく、進路指導の方針や学校文化、そして生徒本人や家庭の価値観の違いによって形成されていると見ることができます。
まとめ|数字から見える両校の個性
今回の比較結果から、両校の「進路の志向性」や「戦略の違い」が、合格実績に如実に現れていることがわかります。
- 長野高校は、現役合格と私立併願を組み合わせた“バランス型”の受験戦略で、堅実に実績を積み上げている印象。
- 松本深志高校は、浪人してでも本命に挑む“覚悟型”の文化が色濃く、それが進路選択にも表れています。
今回の分析では、主要な難関大学に絞って合格実績を比較しましたが、卒業生数の多い松本深志高校に対して、長野高校の方が合格者数で上回る結果となりました。
つまり、難関大合格率においては長野高校が優位と見ることもできるでしょう。
松本深志高校の、医学部志向の強さや「浪人してでも第一志望」文化が、進路傾向に独自性を与えています。
通学圏の違いにより、直接的にどちらに進学するかで悩むケースは少ないと思われますが、県内の教育文化や進路方針の違いを象徴する2校として、その存在は非常に興味深いものです。
【出典】
・長野県長野高等学校 進路状況(https://www.nagano-c.ed.jp/nagakou/)
・長野県松本深志高等学校 進路状況(https://www.nagano-c.ed.jp/fukashi/)
※2021年〜2025年の合格実績をもとに筆者作成。
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