長野県で進められている高校再編の一環として、北信地区の旧第4通学区にある更級農業高校・松代高校・屋代南高校の3校が、2校に再編される方針が示されています。これにより屋代南高校の閉校は避けられない状況となっています。
本記事では、屋代南高校がなぜ閉校の対象とされたのか、その背景にある政策判断や、地域に与える影響について多角的に考察します。
出典:地理院地図(国土地理院)を加工して作成
再編対象3校の現状
今回の再編に至った背景には、これら3校がいずれも学年3クラス程度の小規模校であり、偏差値帯が近く志願者層が重なっているという現実があります。
このような条件下では、少子化の進行や地域の人口動態を踏まえて、統廃合は避けがたい選択だったといえるでしょう。
総合技術校と普通科校への再編:地理的合理性の選択
方針としては、3校を2校に再編し、そのうち1校を実業系学科を集約した総合技術校、もう1校を普通科のみの高校とするという形です。
総合技術校は更級農業高校が有力
総合技術校の校地については明示されていませんが、更級農業高校が圧倒的に有利と見られます。農業科を新校で維持するには農地などの専門的な施設・設備が必要であり、現行の農業高校をそのまま活用するのが、コスト・時間両面で合理的だからです。
普通科校は松代高校に
普通科校として残るもう1校の選定には、立地や地域バランスが考慮されたといえます。結果として松代高校が選ばれましたが、これにも一定の妥当性があります。屋代南高校は駅近で交通の便が良いという利点がある一方、近隣には県内有数の進学校・屋代高校が存在しており、同じ千曲市内に2校は必要なのかという見方が強くあったと考えられます。このような事情から、屋代南高校はどうしても不利な立場に置かれざるを得ませんでした。
「多部制・単位制」への転換構想という“もう一つの未来”
ここで一つ重要な「もしも」の話があります。かつて屋代南高校には、多部制・単位制高校への転換構想がありました。
これは定時制的な柔軟な学びの形を志向するもので、2000年代前半に具体的に検討されていたのです。しかしながら、関係者から十分な理解が得られなかったとされ、2006年にこの構想は凍結されています。
屋代南高校は多部制・単位制に適した条件だった
この凍結が、屋代南高校の運命を大きく左右した可能性があります。
多部制・単位制という形式は、全日制の枠を超えて、より柔軟な学習スタイルを可能にするものです。特に屋代南高校は、しなの鉄道屋代駅から徒歩数分という立地にあり、通学利便性の面でも多部制・単位制に非常に適していたと考えられます。
長野東高校がその対象校に しかし課題は残る
実際、北信地区ではその後しばらく多部制・単位制の高校が設置されず、ようやく近年になって長野東高校が「スーパーフレックス新校」としてこの形式に転換されることになりました。
しかし、長野東高校は鉄道アクセスが良いとは言えず、多部制・単位制校としての立地には課題があります。消去法的な選定だった可能性も否定できません。
関連記事:長野東高校がスーパーフレックス新校に その問題点とは?
このときの選択が重要な岐路だった可能性
そう考えると、屋代南高校が当時、多部制・単位制高校へと転換し独自の教育機能を果たしていれば、今回の再編対象からは外れ、閉校の危機は免れていたかもしれません。
学校を永続的に残すための重要な選択肢が、理解不足やイメージの問題で潰されてしまったのは、非常にもったいないことだったと言えるでしょう。
当事者と外部の温度差
屋代南高校の閉校方針に対しては、学校存続を求める署名活動などが行われ、一定の反響を呼んでいます。しかし、その主張の中には議論の余地があるものもあります。
千曲市の人口規模に対して高校1つは不公平か?
主張のひとつに、「千曲市の約6万人の人口規模に対し高校が1校のみになるのは教育機会の均等を損ねることになる」との意見があります。
しかし、高校進学はもともと市町村単位で完結するものではなく、教育機会の均等とは必ずしも同一市内に高校があることを意味しません。千曲市からは長野市篠ノ井地区など近隣自治体へのアクセスも良く、通学圏を広く捉えれば、多様な進路選択が可能な状況にあります。
千曲市のもう1校「屋代高校」
千曲市のもう1校は、県内有数の進学校であり附属中学校も併設する屋代高校です。
屋代高校は北信だけでなく東信も含めた広範囲から優秀な生徒を集める「千曲市の学校」であり、その存在自体が千曲市にとって大きな教育資源となっています。これは、他の市町村と比べても「教育環境に恵まれている」と評価される状況と言えるでしょう。
反対意見の発信者
注目されるのは、こうした反対意見を発しているのが市議会議員や商工会関係者など、地域経済や行政に関わる立場の人々が主体となっています。一方で、同窓会など学校に直接関わる当事者からの表立った反対の声は、目立っていない印象もあります。
これは、学校関係者の多くが状況を受け止め、ある程度「仕方がない」と捉えている一方で、地域における経済的・政治的利害を持つ層が閉校による影響をより強く懸念していることの表れかもしれません。
もちろん、地域経済や街の活力にとって学校の存在が果たす役割は大きく、存続を求める声にも一理あるのは間違いありません。
最後に
高校の統廃合は、地域にとって感情的にも重い問題です。しかし、現実には、人口減少や教育ニーズの変化に対応していかなければなりません。屋代南高校のケースは、その現実と「もしも」の分岐点が交錯した、象徴的な事例といえるでしょう。
地域の教育をどう未来につなげるか。その選択が、将来の世代にどのような影響を及ぼすのか。この再編が新たな学びの形を模索する出発点となることを願ってやみません。
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