長野県の高校部活動人口は少子化とともに縮小している。しかしデータを丁寧に読むと、「減り方」には競技ごとに大きな差がある。
バドミントンのように生徒数が減る中でも部員を増やした競技がある一方、少子化では説明できないほど急激に縮んだ競技もある。その最たる例が柔道だ。
男子団体に学校単位で出場できる高校は、2005新人〜2006総体の36校から2024新人〜2025総体では14校まで絞られた。地域から競技が「消えていく」現実を、数字で追った。
生徒は減った。でも、それだけではない。
2003年から2025年にかけて、長野県の全日制高校の生徒数は54,759人から37,105人へ、約32%減少した。少子化の影響は明らかだ。部活動の競技人口が減るのは、ある程度避けられない。
しかし、競技ごとのデータを並べると、32%という数字では到底説明できない「差」が現れる。生徒数と同じペースで減っている競技もあれば、それをはるかに超えて激減した競技、逆に生徒数が減る中でも部員を増やした競技もある。
「少子化だから仕方ない」——その言葉の陰に、競技ごとの構造的な課題が隠れている。

競技別の変化率——少子化進行との比較
下のグラフは、2003年から2025年にかけての競技別高体連登録人数の変化率ランキングだ。破線は全日制生徒数の減少率(▲32%)を示す。この破線を下回る競技は、少子化以上のペースで競技人口が減少していることを意味する。

※いずれかの年に高体連登録人数が500人以上あった競技を対象として集計
バドミントンは「少子化に抗い増加」、柔道は「突出した減少」
時系列で各競技の推移を見ると、明暗がより鮮明になる。以下のグラフでは2003年を1.0として指数化しており、全競技が同じスタートラインに揃うため、傾きの差が一目でわかる。破線(生徒数)を上回れば少子化に抗って増加していることを示す。

減少率上位(柔道・テニス)、増加率トップ(バドミントン)、および部員数の多い主要競技(硬式野球・サッカー)を代表として抜粋
なぜ柔道だけここまで減ったのか
少子化の影響だけなら、他の競技も同じように減るはずだ。しかし前のグラフが示すように、柔道の落ち込みは生徒数の減少率をはるかに超えており、バドミントンやサッカーなどとは明らかに異なる軌跡を描いている。柔道は「生徒が減ったから部員が減った」のではなく、「生徒に選ばれなくなった」競技なのだ。その背景には複数の構造的な要因が重なっている。
36校→14校「学校単位での縮小」
柔道の減少は、「各学校の部員がちょっとずつ減った」というレベルの話ではない。男子団体(5人制)を成立させられる学校が明確に減っているのだ。
以下は、2005新人〜2006総体と2024新人〜2025総体の男子団体出場校の比較だ。
団体戦出場校 長野県分布図比較

2005年新人は5人制のみ、2024年新人はⅡ部(3人制)出場校も含む

北信(7校):中野立志館(旧:中野実業)、長野工業、更級農業、松代、屋代、○長野日大、○長野俊英
東信(2校):○佐久長聖、丸子修学館(旧:丸子実業)
南信(2校):○東海大諏訪(旧:東海大三)、飯田OIDE長姫(旧:飯田工業)
中信(2校):○松本第一、松本工業
北信:須坂創成
北信(2校):長野商業、篠ノ井
東信(8校):上田、上田染谷丘、上田東、上田千曲、○上田西、小諸商業、野沢北、小海
南信(6校):岡谷工業、辰野、駒ヶ根工業、飯田、飯田風越、阿智
中信(7校):蘇南、松本深志、豊科、南安曇農業、穂高商業、大町、○武蔵工大二(現:東京都市大塩尻)
北信だけが厚みを保ったーー地域によって異なる構図
団体戦出場校の減少は、長野県全体で均等に起きているわけではない。地域ごとに見ると、その構造は驚くほど対照的だ。

2005新人〜2006総体の集計では、各地区からおおむね10校前後がバランスよく出場していた。一方、2024新人〜2025総体では、北信が8校に保てているのに対し、東信・南信・中信はいずれも2校にまで縮小している。
【東信・南信・中信】私立強豪校への一極集中
この3地区に共通しているのは、出場校の顔ぶれがいずれも「私立1校+実業系公立1校」という構成になっている点だ。東信では佐久長聖、南信では東海大諏訪、中信では松本第一と、各地区で私立強豪への戦力集中がうかがえる。実際、近年の対戦結果を見る限り、これらの私立校と他校のあいだには小さくない実力差があるように見える。
もちろん、それだけが出場校減少の原因だと断定はできない。少子化や部員確保の難しさ、指導者不足など、複数の要因が重なっているはずだ。ただ、強豪私立への戦力集中が進んだ地域ほど、団体戦の勝敗がある程度見えやすくなり、他校にとって競技を続ける意味を見失いやすい環境になっている可能性はある。現在の出場校の偏りは、地域ごとの柔道基盤が均等には残っていないことを示している。
一方、北信には特定の「絶対的強豪」が存在しない。出場各校が拮抗しており、どの学校にも勝機のある環境が維持されている。複数の小規模校が乱立しているように見えるが、それこそが競技を存続させる構造だとも言える。
公立普通科の消滅——残ったのは屋代のみ
もう一つ、見落とせない事実がある。2025年の出場14校のうち、公立普通科校は屋代1校のみだ。残りはすべて私立校か、工業高校などの実業系公立校であり、全体のバランスを考えると際立った偏りである。
公立普通科校、特に大学進学を前提とした進学校においては、「練習強度が高く勉強との両立が難しい競技」から部員が離れやすい構造があるのではないか。
屋代が唯一残った理由として、北信という「一強不在の競争環境」にいること、そして進学校でありながらも長年の伝統と指導者の継続性が支えているという可能性が考えられる。逆に言えば、それほどの条件が揃わなければ公立普通科で柔道部を維持することは、今や極めて困難な時代なのかもしれない。
複合する要因——少子化はあくまで「引き金」
柔道の急減を一つの要因に帰することはできない。複数の構造的な問題が重なっている。
①少子化による部員数の底上げ消失
かつては「とりあえず入部する」生徒でも団体を組めた学校が、いまは最低人数の確保から難しくなっている。大会方式が弾力化しても、学校単位で団体に出るハードルは下がり切っていない。
②指導者不足と安全面のハードル
教員の働き方改革の流れで部活動指導の負担が見直される中、専門知識が必要な格闘技系の指導者確保はさらに難しくなっている。加えて柔道には、不適切な指導が重大事故につながるリスクがある。2000年代以降、学校柔道での事故が社会問題化したことで、「有資格者や経験者でなければ指導を任せられない」という意識が学校現場で広がった。その結果、適切な指導者がいなければ存続できない競技になっており、人数の確保に加えて質の担保という二重のハードルが存続をより困難にしている。
③高い参入障壁
バドミントンや卓球は素人でもラケットを持てばとりあえず打ち合いができる。しかし柔道は違う。柔道衣・畳・相手が必要なうえ、まともに競技として楽しめるようになるまでに相当な時間と練習量を要する。「ちょっとやってみよう」が通じない競技であることは、入部のハードルを確実に上げている。
「減っている」ではなく、「成立しなくなっている」
このまま推移すれば、県内の一部地域では高校柔道を経験できる環境そのものが消える。かつて各地区の複数校で競い合っていたような機会が、次の世代には与えられないかもしれない。
一方で、バドミントンのように「危機を逆転した競技」も存在する。競技の魅力発信、指導者確保の仕組み、合同チームの積極的な制度化——柔道にも、まだ打てる手はある。データが示す現実を正面から見つめることが、その第一歩になるはずだ。
問いかけ:あなたの地域の高校に、まだ柔道部はあるか。そしてその部員たちが団体戦を戦える環境は、10年後も残っているだろうか。


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