長野県には数多くの高校があるが、その校名に注目したことはあるだろうか。
「長野」「上田」「飯田」のように所在地をそのまま校名にした学校もあれば、「長野東」「岡谷南」のように方角を添えた学校もある。そして「松本深志」「諏訪清陵」「上田染谷丘」のように、地名のあとに、いわば“二つ目の名前”を持つ学校もある。
私は以前から、長野県の高校名には実に味わい深いものが多いと感じていた。特に興味深いのは、校名の由来を調べると、その地域の地理や歴史が浮かび上がってくることだ。
今回は、そんな長野県の高校名について「かっこいい校名ランキングTOP5」を選んでみた。
なお、評価するのは学校の教育内容や進学実績ではなく、あくまで校名である。ただし、校名の由来や積み重ねてきた歴史も評価に含めている。極めて主観的な、独断と偏見によるランキングであることを、あらかじめお断りしておきたい。
かっこいい校名ランキングトップ5
第5位 小諸義塾高校
小諸高校と小諸商業高校の統合によって誕生した学校であり、今回のランキングでは唯一、統合新校として命名された高校である。
「義塾」と聞くと、真っ先に慶應義塾を連想する人も多いだろう。そのため、事情を知らなければ、慶應義塾の二番煎じのような名称だと思われるかもしれない。
しかし、小諸義塾という名称には、れっきとした歴史的背景がある。
明治時代、小諸には実際に「小諸義塾」という私塾が存在していた。島崎藤村が教鞭を執ったことでも知られる、地域の教育史において重要な存在である。
つまり、単に「義塾」という格好のよい言葉を借りたわけではない。地域に実在した歴史的な教育機関の名称を、現代の高校名としてよみがえらせたのである。
私は、この命名の発想に強く惹かれた。
近年の高校再編では、新たな教育理念や未来への希望を込めた名称が採用されることも多い。それ自体を否定するつもりはないが、個人的にはどうしても人工的な印象を受けてしまうことがある。
その点、小諸義塾は違う。新しい学校でありながら、地域の教育史をしっかり踏まえた名称となっている。
新設校でありながら、名前そのものには長い歴史がある。
この点を高く評価し、第5位とした。
第4位 諏訪清陵高校
第4位は、諏訪清陵高校。
長野県を代表する伝統進学校の一つであり、校名にも独特の格式が感じられる。
「清陵」という二文字が実に美しい。清らかな丘陵を連想させる、端正で高尚な名称である。
しかも、単に美しい漢字を組み合わせたわけではない。学校の沿革によれば、前身の諏訪郡立実科中学校が明治29年(1896年)に上諏訪町清水町の丘陵へ新校舎を構えたことが、後の「清陵」の名の由来だという。そして昭和23年(1948年)の学制改革で、諏訪清陵高等学校となった。
このように、地理的な由来がありながら、名称そのものにも美しい意味を読み取れるところが素晴らしい。
しかし、諏訪清陵は長年にわたり、この名称で歴史を積み重ねてきた。今では「諏訪清陵」という四文字そのものに、伝統校としての重みが宿っている。
校名の美しさに、長年積み重ねてきた歴史が格式を与えた好例ではないだろうか。
第3位 諏訪二葉高校
第3位も諏訪地域から。諏訪二葉高校である。
私は「二葉」という二文字に、何ともいえない風情を感じる。
「双葉」ではなく「二葉」。この表記が実にいい。若葉を連想させる柔らかな響きがあり、どこか優美で上品な印象を受ける。
しかも、二葉という名称にも地域の地名に由来する背景がある。学校は諏訪市東部の高台、二葉ヶ丘に位置しており、諏訪の町並みや諏訪湖を一望できる。
そして、諏訪二葉は明治41年(1908年)創立の諏訪高等女学校を前身とし、昭和62年(1987年)に男女共学となった学校である。私には、この柔らかな校名が、旧女学校という歴史に実によく似合っているように感じられる。
同じ諏訪市にある諏訪清陵と比較してみると、その違いが際立つ。
清陵は凛々しく、重厚。二葉は柔らかく、優美。
どちらも美しい名称だが、醸し出す雰囲気はまったく異なる。名称と学校の歴史がこれほど自然に調和していることは、校名としての完成度の高さを物語っているように思う。
第2位 松本深志高校
第2位は、松本深志高校。
言わずと知れた長野県を代表する進学校である。
「深志」という二文字には、何ともいえない格式高さがある。「深志」は、松本という地名が生まれる前のこの土地の古い名前である。戦国時代には松本城の前身にあたる深志城が築かれ、小笠原貞慶がこの城を取り戻した際に、地名を「松本」に改めたとされる。つまり深志とは、城下町・松本の原点ともいえる名前なのだ。
しかし、私が高く評価するのは、単に歴史的な地名だからという理由だけではない。
「深志」という漢字を見れば、「深い志」という意味を読み取ることもできる。これが高校の名称として、実に秀逸なのである。
志を深く持つ。教育機関の名称として、これほど相応しい言葉もなかなかないだろう。しかも、実際には歴史ある地名に由来しているのだから、単なる教育理念の標語とは違った重みがある。
「松本深志」という四文字の語感も素晴らしい。全国の名門高校の名称と並べても、まったく見劣りしないだろう。
県を代表する伝統校だという先入観が、評価を後押ししている面はあるかもしれない。それでも、城下町の歴史と教育機関に相応しい意味を兼ね備えた「深志」という名称の完成度は、極めて高い。
堂々の第2位である。
第1位 飯田風越高校
栄えある第1位は、飯田風越高校。私が長野県で最もかっこいいと感じる高校名である。
「風越」という名称は、飯田市の象徴的な山である風越山に由来する。
風越山には「かざこしやま」と「ふうえつざん」という二通りの読みがある。一方、高校名は「いいだふうえつ」と読む。
私は、高校名に音読みの「ふうえつ」が選ばれていることも実に秀逸だと感じている。「かざこし」という地名らしい素朴な響きに対し、「ふうえつ」には、どこか柔らかく上品な印象がある。
それでいて、漢字そのものは「風越」。文字どおりに読めば「風を越える」である。何と美しい表現だろう。
風を越えて進んでいく。そこには爽やかさと力強さ、そして前向きな躍動感が感じられる。しかも、これが無理に考え出された美称ではなく、地元の山に由来する名称なのだから素晴らしい。
さらに、飯田風越は旧高等女学校の流れをくむ学校である。「ふうえつ」という柔らかな響きが、その歴史とも自然に調和しているように感じられる。
松本深志と比較すれば、全国的な知名度では及ばないかもしれない。しかし、校名そのものの完成度では決して引けを取らない。むしろ、私は風越の方に強く惹かれる。
そして、飯田風越を1位に選んだ理由には、もう一つ個人的な思いがある。
これほど美しい校名なのだから、もっと多くの人に知ってほしい。
そんな願いも込めて、飯田風越を第1位とした。
惜しくも圏外となった校名たち
蘇南高校 ― 木曽の南を「蘇南」と表現したセンス
今回、最後までTOP5入りを迷ったのが蘇南高校である。
木曽の南部という地域性を表現しながら、あえて「蘇南」という二文字にしたところが実に美しい。「曽南」でも「南木曽」でもなく、「蘇南」。この一文字の違いによって、名称に独特の風格が生まれている。
蘇南高校の創立は1953年。現在の南木曽町が成立したのは1961年なので、校名の方が町名よりも先に存在していたことになる。
校章の五葉の花弁は、発足時に学校組合をつくった読書・吾妻・田立・山口・神坂の5村を表しているという。このうち山口村と神坂村は、現在は岐阜県中津川市の一部である。つまり「蘇南」とは、特定の自治体ではなく、県境をまたいだ木曽谷南部という地域そのものを指した名前だったわけだ。
私としては、いっそのこと町の名称を「蘇南町」にしてもよかったのではないかと思うほどである。
近年は定員割れなど厳しい状況にあるが、校名の美しさは学校の規模や人気とは関係ない。蘇南という名称が持つ独特の魅力は、もっと評価されてもよいと思う。
犀峡 ― 犀川の峡谷を表現した美しい名称
もう一つ挙げたいのが犀峡である。
現在は篠ノ井高校犀峡校という位置づけであるため、独立した高校として今回のランキングに含めるか迷い、圏外とした。
しかし、校名そのものは極めて魅力的である。犀川の谷あいに位置する学校を「犀峡」と表現した。単に所在地の地名を使うのではなく、地域の地形を二文字に凝縮している。
しかも、学制改革以来の歴史を持つ名称である。「犀峡」という二文字には、長野県らしい山河の風景が浮かんでくるような美しさがある。
飯田長姫 ― 失われた名校名
そして、最後に挙げたいのが旧飯田長姫高校である。
長姫は、飯田城の別名である長姫城に由来する。「おさひめ」という独特の読み方も含め、実に風格のある名称だ。私の中では、飯田風越と1位を争ってもおかしくないほど高く評価したい。
かつて飯田には、「風越」と「長姫」という、どちらも極めて美しい名称を持つ高校が共存していた。これは何とも贅沢なことである。
現在は飯田工業高校との統合により「飯田OIDE長姫」という名称になっている。「長姫」の名が残されたのは、この名前を手放したくないという地元の思いが、それだけ強かったからではないだろうか。明治に飯田城が廃城となった際にも、城の名を残そうと石橋が「長姫橋」と名付けられたという。長姫という名前は、時代が変わるたびに誰かが受け継ごうとしてきた名前なのである。
なぜ中南信には個性的な高校名が多いのか?
今回のランキングを振り返ると、一つ興味深いことに気づく。「惜しくも圏外」を含めて取り上げた8校のうち、6校が中南信地域に所在しているのである。

TOP5のうち東北信は小諸義塾だけで、残る4校は松本・諏訪・飯田に並ぶ。圏外の3校も、犀峡を除けば中南信にある。
これは偶然だろうか。例えば、松本市の伝統的な普通科高校4校を並べてみたい。
- 松本深志
- 松本県ケ丘
- 松本蟻ケ崎
- 松本美須々ケ丘
いずれも、その土地ならではの名称である。「松本東」「松本西」「松本南」「松本北」といった方角による命名ではなく、それぞれが独自の地名や歴史的背景を持っている。特に「蟻ケ崎」や「美須々ケ丘」などは、全国的に見ても印象に残る校名ではないだろうか。
一方、東北信地域ではどうだろう。長野東、長野西、長野南、上田東、野沢北、野沢南など、方角を用いた名称が目立つ。
もちろん、これは傾向として感じる程度の話である。南信にも伊那北、岡谷東、岡谷南といった方角系の校名はあるし、東北信にも上田染谷丘のような風情ある名称がある。東北信の校名が劣っているという話ではない。
それでも、私には中南信の方が独自性のある名称が多いように感じられる。
この違いについては、以前、昭和後期に新設された高校の校名を取り上げた記事でも考えたことがある。そこでは、北信には方角で校名を付ける「方角文化」、中信には地名や雅称を付ける「雅称文化」があるのではないか、と書いた。今回、校名の由来や歴史という別の切り口から選んでみても、やはり同じ傾向が浮かび上がったことになる。
校名のかっこよさは、何が作るのか?
ランキングを作りながら、私自身が学校の歴史や知名度に影響されているのではないか、という疑問がずっとあった。諏訪二葉や飯田風越を柔らかく感じるのは旧女学校だと知っているからかもしれないし、松本深志や諏訪清陵を格式高く感じるのは旧制中学を母体とする伝統進学校だと知っているからかもしれない。
その一方で、統合や改称などで新たに付けられた校名にはどうしても物足りなさを感じてしまう。中野立志館、須坂創成、東御清翔、木曽青峰、大町岳陽など。それぞれに命名の意図や地域への思いが込められているはずだが、長年使われてきた校名と比べると、まだ重みが足りないように思えるのだ。
この差はどこから来るのか。考えた末、私は二つの軸に行き着いた。
軸1:その名前で積み上げた歴史
改めて「清陵」という字面だけを見てほしい。「清」に地形の一字を添えた組み立ては、正直なところ、東御清翔や木曽青峰と同じ型である。いかにも今風の新設校がつけそうな名前だ。
しかし、この名前が採用されたのは1948年の学制改革のときである。「諏訪中学」という呼び名に親しんだ当時の生徒や卒業生の中には、洒落た新しい名前に違和感を覚えた人もいたかもしれない。それでも清陵は改称されることなく使われ続け、約80年をかけて格式ある伝統校の名前になった。
名前が学校を作るのではなく、学校が名前を育てたのではないだろうか。
軸2:その土地でしか成り立たない名前か
ただし、清陵と清翔には決定的な違いがある。
清陵の「清」は、清水町という実在の地名から来ている。明治29年から学校が建ち続けた清水町の丘陵だから、清陵。命名の時点で、すでに半世紀分の土地の記憶があったのだ。そう考えると、当時の反発も案外小さかったのかもしれない。
一方、清翔の「清」は「清らかであれ」という願いに近い。意味がないとは言わないが、理念が先に立っていて、東御である必要が感じられない。全国どこの高校につけても成立してしまう名前なのである。青峰や岳陽も同じだ。山が美しい土地柄には合っているが、木曽や大町でなければならない理由はない。
これに対し、今回選んだ校名はどれも「よそに持っていけない名前」である。風越は飯田の山、深志は松本の古い地名、二葉と清陵は諏訪の丘、小諸義塾は小諸に実在した私塾。圏外とした犀峡も蘇南も、その土地の地形や地域を指した名前だ。
風越がかっこいいのも、「風を越える」という美しい字面が、たまたま飯田の山の名前だったからである。理念から美しい字を探すと青峰や岳陽になり、土地の固有名詞の中に美しさを見つけると風越や深志になる。同じ美しい二字でも、出発点が逆なのだ。
二つの軸で見ると
この二つの軸で見ると、小諸義塾を第5位に選んだ理由も明確になる。名前としての歴史は新しいが、土地との結びつきは明治の私塾にまでさかのぼる。だから新しくても重みがある。
逆に言えば、いま物足りなく感じる名前にも希望はある。仮に「大町岳陽」が1948年から使われていたら、私の印象はかなり違っていたはずだ。80年後の誰かが、大町岳陽を「歴史を感じるかっこいい名前」としてランキングに入れている可能性は十分にある。
おわりに ― あなたが選ぶ最もかっこいい高校名は?
今回のランキングは、あくまで私個人の好みに基づくものである。しかし、校名を一つひとつ眺めてみると、そこには地域の歴史や地理、そして命名した人々の思いが込められていることに気づく。
普段何気なく呼んでいる高校名も、その由来を知ることで、まったく違った魅力が見えてくる。
そして、今回のランキングを作りながら、もう一つ興味が湧いてきた。長野県の高校をまったく知らない人が、学校の歴史や進学実績を知らされず、校名だけで順位を付けたらどうなるのだろうか。
実は、ささやかな手がかりがある。この記事の構想段階で、AIに長野県の「かっこいい校名ランキング」を作らせてみたところ、上位に並んだのは飯田OIDE長姫、東御清翔、大町岳陽、木曽青峰、中野立志館といった、比較的新しい校名ばかりだった。由来や歴史を踏まえずに字面だけで選ぶと、評価はこうも変わるのである。
果たして人間が同じ条件で選んだら、飯田風越は上位に入るのか。松本深志は、進学校としての知名度がなくても高く評価されるのか。そんな調査も、いつか実施してみたいと思っている。
皆さんは、長野県で最もかっこいい高校名はどこだと思うだろうか。今回紹介した高校以外にも、魅力的な校名は数多くあるはずだ。ぜひ、それぞれのお気に入りの校名を教えていただきたい。



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