住宅も高校も多いのに駅は4つだけ ― 中央線・諏訪湖周に新駅ができない理由

地域別の学校研究

はじめに:住宅も学校も多いのに、駅は4つだけ

諏訪湖の周りを走るJR中央本線は、岡谷から茅野までの間に駅が4つしかありません。岡谷、下諏訪、上諏訪、茅野です。駅間の営業キロは、岡谷〜下諏訪が4.1km、下諏訪〜上諏訪が4.4km、上諏訪〜茅野が6.7kmです。

沿線には住宅地が途切れず続き、高校も点在しています。それでも「家から駅まで遠い」「駅から学校まで坂を上る」という声は、湖周で暮らす人や通学する高校生にとって身近なものです。

駅がもう少しあれば、通学も暮らしも楽になるのではないか。この記事では、そんな素朴な疑問から出発して、湖周の新駅の可能性と、学校と通学の関係を考えてみます。

湖周の駅と駅間距離、単線と複線の区間、そしてこの記事で取り上げる新駅の候補地をまとめると、上の図のようになります。

理想編:現実性は抜きに「ここに駅が欲しい」

まずは実現できるかどうかを脇に置いて、駅があったら便利そうな場所を考えてみます。筆者が有力だと思うのは、次の2区間です。

岡谷〜下諏訪間(岡谷東高校付近)

岡谷市の東側から下諏訪町にかけては、線路沿いに住宅地が厚く広がっています。岡谷駅と下諏訪駅のどちらからも距離がある住民は少なくありません。通勤や通学、買い物で鉄道を使いたくても、駅まで車で行ったほうが早い、という状況が生まれています。

学校の面でも見逃せない区間です。岡谷東高校と岡谷南高校は、岡谷駅から2km近く離れている一方で、線路からは割と近い場所にあります。線路はすぐそばを通っているのに、最寄りの駅は遠い。この区間に駅があれば、両校の通学事情は大きく変わるはずです。ただし両校は統合が決まっているため、統合後の校地がどこになるかで、この区間の通学需要も変わってきます。

上諏訪〜茅野間(普門寺付近)

湖周でいちばん長い駅間で、6.7kmあります。途中の四賀地区周辺にも住宅地が広がっていますが、駅の空白地帯になっています。この区間には列車のすれ違いに使う普門寺信号場があり、後で触れるように、新駅を考えるうえで重要な場所です。

私の感覚では、この2区間にはどちらも十分な需要があると思います。沿線には、駅があれば鉄道を使いたい住民や、通学する生徒が多くいるのではないでしょうか。

比較:長野県内では新駅ができている

「新駅なんてそう簡単にできない」という気もしますが、県内を見渡すと、既存の路線に後から造られた駅は意外とありました。1980年代以降の主な例を、開業の古い順に並べました。

駅名路線・区間開業線路主な需要
安茂里信越本線
長野〜川中島
1985年複線住宅地
附属中学前長野電鉄長野線
朝陽〜柳原
1985年単線信大附属長野中学校/小学校など
すずらんの里中央本線
青柳~富士見
1985年複線セイコーエプソンの事業所
美里小海線
三岡~中佐都
1988年単線工業団地
今井信越本線
川中島〜篠ノ井
1997年複線住宅地(今井ニュータウン)
テクノさかきしなの鉄道線
坂城~西上田
1999年複線工業団地
屋代高校前しなの鉄道線
篠ノ井~屋代
2001年複線屋代高校/付属中学校など
信濃国分寺しなの鉄道線
上田~大屋
2002年複線住宅地
平田篠ノ井線
南松本〜村井
2007年複線住宅地
千曲しなの鉄道線
屋代〜戸倉
2009年複線住宅地

特に象徴的なのが屋代高校前駅です。駅名に学校名が入り、通学の利便線は一気に向上しています。屋代高校は後に附属中学校を持つ中高一貫校になりました。この駅の存在が附属中学校設置の後押しにもなったのではないかとさえ考えています。

現実編:湖周に駅が増えない3つの壁

壁1:単線

最大の理由は、岡谷〜普門寺信号場付近が単線であることです。単線では、上りと下りの列車が駅や信号場ですれ違います。停車駅が1つ増えるだけで所要時間が延び、すれ違いのタイミングが狂います。

しかも同じ線路を、特急「あずさ」や貨物列車も走っています。この区間で一つの列車が遅れると、塩尻・松本方面や篠ノ井線にまで遅れが広がりやすいとも言われます。駅を足すには、ダイヤ全体の組み直しが必要になりかねません。

なぜここだけ単線なのか

普門寺信号場は1970年に開設され、東京から続く複線は、ここを境に岡谷駅まで単線になります。中央東線でほかに単線が残っているのは、辰野支線だけです。

考えてみると、これは不思議な話です。閑散とした山間部ならともかく、単線になるのは住宅が密集し、乗り降りする人も多い湖周の区間です。こここそ、本来は複線であるべきではないでしょうか。

なぜこの区間だけ単線のまま残ったのか。公式に説明された資料は見当たりませんが、最大の理由は用地だと考えられます。湖周の線路は山と諏訪湖に挟まれた狭い土地を通り、その周りには市街地や住宅が線路際まで迫っています。線路をもう1本敷く敷地が、とにかくないのです。上諏訪駅の周辺は地盤が弱いという指摘もあります。

面白いのは、単線を悪いことばかりとは見ない声もあることです。すれ違いのために列車が駅に止まる必要があるぶん、特急が止まる機会が生まれている、という見方です。不便の原因である単線が、湖周の駅に特急を呼び込む役割も果たしている。そんな二面性があるのかもしれません。

先ほどの表を見ると、幹線に造られた駅はいずれも複線の区間にあります。附属中学前と美里は単線区間の駅ですが、どちらも中央本線ほど列車が多くなく、貨物列車も走らない路線です。特急や貨物が行き交う幹線の単線区間に後から造られた駅は、筆者が調べた範囲では見当たりません。同じ諏訪地域でも、すずらんの里にはできて湖周にはできない。この対比が、単線の重さをよく表しています。

壁2:費用は地元負担

JRの新駅は、地元の自治体などが費用を負担する「請願駅」が基本です。今はエレベーターなどのバリアフリー設備も求められます。跨線橋や駅前広場まで含めると、数億〜十数億円規模になることも珍しくありません。県内の例でも、費用の差は歴然です。1985年のすずらんの里駅は、セイコーエプソンが約2億円を負担して造られました。一方、2007年の平田駅は、総事業費38億円を松本市が全額負担しています。駅の規模が違うので単純には比べられませんが、今の新駅にはこれだけの費用がかかるという実例です。

壁3:JRの収入はあまり増えない

新駅の利用者の一部は、もともと隣の駅を使っていた人です。JRにとって本当に増えるのは、車から鉄道に乗り換えた人の分だけです。一方で、駅の維持費や停車による時間の増加はJRの負担になります。

さらに高校生の通学需要は、JRから見ると弱点もあります。通学定期は割引率が大きく、朝夕に利用が集中するためです。

それでもしなの鉄道はなぜ4駅も造れたのか

しなの鉄道線は軽井沢〜篠ノ井間が全線複線です。新幹線の開業で特急がなくなり、停車駅が増えても困る列車がほとんどありません。さらに、県と沿線市町が出資する第三セクターなので、地域と鉄道会社の利害が一致しやすい構造です。湖周の中央本線とは、条件がまったく違うのです。

筆者が有力だと考える岡谷〜下諏訪間は、途中に交換設備がありません。そのため、この3つの壁を正面から受けることになり、正直に言って実現のハードルは高い区間です。

それでも候補を挙げるなら:普門寺信号場

2つの候補を条件で比べると、上諏訪〜茅野間の普門寺信号場付近が残ります。需要は同じくらいでも、単線のハンデが比較的小さいからです。

比較項目候補① 岡谷〜下諏訪間候補② 上諏訪〜茅野間
(普門寺付近)
駅間距離4.1km6.7km(普門寺は上諏訪から3.0km、茅野から3.7km)
沿線の様子線路沿いに住宅地が厚く広がる四賀地区周辺に住宅地が広がる
関係する学校岡谷東・岡谷南
(統合予定。統合後の校地次第)
近くに学校は少ない
(諏訪実業、福祉大学校が上諏訪とのほぼ中間に立地)
需要(筆者の見立て)同程度同程度
すれ違い設備設置は難しいあり(普門寺信号場)
単線の影響停車する分だけ所要時間が延び、ダイヤ全体に響くもともと列車が止まる・減速する地点で、影響は比較的小さい
実現のハードル高い湖周では最も低い(ただし地元負担が前提)

需要は同じくらいでも、すれ違い設備の有無が両者の差を決めています。

普門寺信号場は上諏訪から3.0km、茅野から3.7kmの位置にあり、ちょうど長い駅間のほぼ中間です。もともと列車のすれ違いのために止まる地点でもあります。ここを旅客駅にしても、単線区間の途中にゼロから駅を造るより、ダイヤへの影響を抑えられる可能性があります。線路の配置もある程度できているので、用地をゼロから確保する必要もありません。

つまり普門寺は「JRが造りたがる駅」ではなく、「地元が費用を持てば受け入れてもらえるかもしれない駅」です。湖周で最も現実に近い候補ではありますが、簡単な話ではありません。

学校の視点:駅は低地、学校は高台

湖周の通学の大変さは、駅の数だけの問題ではありません。駅と学校の「高さの差」も大きいのです。

鉄道は急な勾配に弱いため、線路は湖岸や低いところを選んで敷かれます。一方、諏訪地域の高校は高台にある学校が比較的多いです。

  • 諏訪清陵・諏訪二葉: 旧制中学・旧制高等女学校の流れをくむ伝統校で、ともに高台に立地しており上諏訪駅から1.2km前後、坂を上った先にあります。
  • 下諏訪向陽: 昭和55年の開校で、下諏訪駅から2km弱で、坂を上った奥まった場所にあります。

湖と山に挟まれた諏訪は、もともと平地が狭い地域です。低地には城下町や温泉街、そして明治以降は製糸工場が広がりました。下諏訪向陽については、第2次ベビーブーム世代の進学に合わせて全国で高校が急いで新設された時期で、広い土地を確保できる場所が限られていたと考えられます。

こうして見ると、湖周の高校の立地は、駅からの近さより土地の確保が優先されてきたと言えそうです。

駅ができても坂は消えない

清陵と二葉は上諏訪駅から1.2km前後なので、そもそも新駅で解決する距離ではありません。歩くと少し遠いけれど、バスに乗るほどでもない。そんな絶妙な距離に坂道が加わっているのが、両校の通学の課題です。附属中の生徒にとって、冬の凍結した坂道を毎日上り下りするのは大きな負担です。

中高一貫校は広い地域から生徒を集めるため、鉄道での通学がより重要になります。清陵や二葉に必要なのは、新駅よりも「駅から先」の通学環境です。バスに乗るほどではない距離だからこそ、坂道の歩道の整備や、冬の除雪・凍結対策など、歩いて通う環境を良くすることが効果的だと考えます。

提言:高校再編の今こそ、校地選びに「通学」を

諏訪地域の高校は、いま大きな転換期にあります。長野県の高校再編で、諏訪地域では6校が3つの新校に再編される計画です。

新校(仮称)再編の対象校校地の検討状況
岡谷諏訪総合技術新校岡谷工業・諏訪実業未決定(現校地が原則)
岡谷新校岡谷東・岡谷南未決定(現校地が原則)
茅野富士見新校茅野・富士見未決定

新校の校地が決まれば、その場所に今後何十年も生徒が通うことになります。これまでのように土地の確保を優先して駅から遠い場所を選べば、同じ通学の苦労が繰り返されます。

湖周で新駅を造るのは、単線の壁があって簡単ではありません。だからこそ、学校のほうを駅に近づけるという発想が大切だと考えます。

  • 新校の校地選びでは、既存の駅からの距離と高低差を重要な基準にする
  • 駅から離れる場合は、開校と同時に通学バスなど駅から先の足を用意する
  • 普門寺のような新駅の候補地と、学校の立地を一体で検討する

まとめ

湖周に新駅が欲しい場所はあります。岡谷〜下諏訪間も上諏訪〜茅野間も、需要は十分見込めそうです。

しかし、単線、地元負担の費用、JRの収入構造という3つの壁があり、県内のほかの地域のようには駅が増えません。現実的な候補は、交換設備のある普門寺信号場付近に絞られます。

そして、駅が増えても、高台にある学校への坂道はなくなりません。新駅は簡単ではないからこそ、学校の場所と、駅から先の通学の足を一体で考えること。高校再編で学校の配置が変わる今が、その絶好の機会だと思います。

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